プロジェクトの紹介
シカン文化学術調査団(SAP)は、スペイン征服以前にペルー北海岸のランバイェケ地方に興ったシカン文化の全体論的理解を主眼として1978年に島田泉によって発足された、長期的な視野に基づく学際的な地域研究である。
すなわち、当プロジェクトは土器編年や環境的な背景の定義をはじめとして、社会発展のプロセス、社会内部の仕組み、物質的な達成度など、シカン文化およびそれを担った社会を多面的に研究することを目標とした。これらの目標を達成すべく、島田はこの地に最低でも15年は腰を落ち着け、持続した地域研究を行うことを計画していた。それは、アンデスにおけるほとんどの考古学調査がひとつのテーマや地域に絞って、深い理解が得られるまでに長く研究を持続するということをしない、と常々感じていたためである(Shimada 1990a, 1994a)。島田の地域アプローチはまた、場所(首都/中心-後背地/周辺)や性格(住居、生産、祭祀)、規模の異なる複数の遺跡を網羅した。
広範囲の文化および自然現象を適切に調査するため、島田はプロジェクトに学際的視野をもたらすべく専門家のチームを組織した。発足以来、この学際的アプローチこそがSAPの特徴であり、このウェブサイトで提供される情報のほとんどは学際的協力を通して得られたものである。たとえば冶金技術に関する調査チームは、美術歴史家や化学者、地質学者、金細工師、歴史家、鉱山技師、鉱物学者、金属製品の修復家、冶金学者らによって編成された。彼らの多くは調査デザインの段階から、鉱石や遺物サンプルの採取、発掘、分析、出版に至るまでの各プロセスに積極的に参加した。英国、アメリカ合衆国、ペルーからの専門家が力を合わせて金属製品の保存作業にあたった。こうした組織は単に費用、時間、労力の上で効率が高いだけでなく、専門家たちが実地トレーニングや経験を求めてやってくる現地ペルーの修復家や学生たちと一緒に仕事ができる環境を提供することができる。
プロジェクトの最初の5シーズンは、ラ・レチェ中流域のポマ森林国立歴史保護区と「バタン・グランデ」の名で知られるより広い地域における古環境や天然資源、生業活動、居住域の分布とその順序の解明に費やされた。航空写真や衛星画像の解析と現地調査をもとに、地域の地質や水文学特性、先史時代の灌漑用水とそれに関連した耕地、鉱物資源などが同定された。過去のエル・ニーニョによる洪水や川の流れの変化、砂の移動といったプロセスも記録され、地域規模での居住域の分布や土地利用に関する理解を深めるための重要な基礎を築いた(Shimada 1981, 1982)。たとえば地質学者アラン K. クレイグとの共同調査からは、肥沃な渓谷の真っ只中にあるポマで先植民地期に耕作が行われなかったのは、特異な水文学特性と一連の分厚い洪水堆積物のためであることが判明した。塩分及び水素イオン濃度を計測すべく、全長4.5キロの灌漑用水に沿って採取された数多くの土壌サンプルの組織分析と、同時に行われた地層観察は、この調査の重要な鍵であり、ポマがなぜ先植民地期に墓地として利用され、日干しレンガによる大型祭祀建造物があれほどまでに多く集中したのかを説明するのに役立った(Craig and Shimada 1986)。この共同調査は、「小さなラ・レチェ谷は、隣接するより大きなランバイェケ谷とともに機能的な一対を成し、後者が前者のための穀倉地帯として機能していた」というリチャード・シャデール(1951a: 540)による所見を支持する結果となった。
1978年に行われた地域資源と居住域分布の調査は、バタン・グランデ地方において、保存状態の良い先植民地期の冶金工房と、それに関連した採掘坑の存在を明らかにした。これにより、多面的で洗練されたシカンの冶金技術の長期調査(現在も継続中)が可能となった(「研究成果」のセクションを参照のこと)。
5シーズンに渡る複数遺跡を対象とした背景調査ののち、1983年、プロジェクトは「バタン・グランデ=ラ・レチェ考古学プロジェクト」から「シカン文化学術調査団(英語名称:Sicán Archaeological Project)」へと改名し、1985年以降、調査対象を中期シカン期の宗教的・政治的首都と推定されるシカン遺跡やその祭祀建築物へとシフトさせた(e.g., Cavallaro and Shimada 1988; Shimada 1986, 1990b, 1997; Shimada and Cavallaro 1986)。この新しい関心の的は、政治的指導力の本質やその組織、また労働力の組織やそのマネージメントといった事柄を含む、シカン文化の社会・政治的側面を解明しようとするプロジェクトの新しい方向性を反映していた。
上記の新しい調査目標を補完すべく、1990年より今日まで、SAPは埋葬習慣や遺体の学際的分析を通してシカンの社会構造と宗教を解明することに力を注いできた。
SAPは1983年の改名以来一貫して、三時代に分割されるシカンの土器編年のうち最盛期であった中期シカン(紀元900-1100年)に焦点をあててきた。初期シカン(紀元約750/800-900年)の遺跡は概して建築の規模が小さく、中期シカン期の建築や堆積物によって覆われているため発見が困難であることがわかっている。また、後期シカン文化(紀元1100-1375/1400年)も決して蔑ろにされているわけではない。中期シカンの文化的偉業の複雑さ、多様さ、規模を考えれば、さらなる詳細な調査を必要としていることは言うまでもない。
このウェブサイトは、先植民地期のシカン文化の様々な側面に関する情報、ならびに現在もなお継続中である当プロジェクトの目的や方法論、組織、プロジェクトメンバー、調査結果に関する情報を提供する。
(ご意見ご要望はishimada@sican.orgまでお寄せください)